目が覚めたとき、消毒用のアルコールの臭いがやけに鼻についた。
あぁ、ここは病院か。今わたしは病院にいるんだ。
身体を起こしてあたりを見回すと、部屋には誰にもいない。
腕には点滴が刺さっていて、それに気がつくと何ともいえない異物感がこみ上げてきて気持ちわるかった。
しばらくぼうっとした頭で考える。わたしはいつここにきたんだろう。どれくらい眠っていたんだろう。なぜ病院にいるんだろう。考えても思い出せない。

ベッドから足を下ろして立ち上がろうとするとうまく力が入らなくて転んでしまった。
思わず点滴をつかんでバランスをとろうとしたけれどそのまま点滴も一緒に倒れて大きな音をたてた。
丁度そのとき病室の扉が開いて看護師さんと、もう一人誰かが入ってきた。
   さん、よかった。目を覚ましたのね。わたしは思わずわたしの後ろを振り返る。後ろには病院の簡素なベッドがあるだけでほかには誰もいない。一体誰に話しかけているんだろう?
不思議に思いながら看護師さんが倒れた点滴を元に戻しているのをながめていると、一緒に部屋に入ってきたとても綺麗な男のひとがわたしの手をとってゆっくりと話しかける。


「   、二日も眠ってたんだぞ。気分はどうだ?」


   ?それは、誰のこと?
目の前にいる男のひとは、わたしの手を握って、わたしの目をみて、優しく   という。


って、だれ?」


彼が言う、おそらく二日ぶりにした声はとても掠れていて、喉に湿り気がないせいでとても痛かった。
それを聞いていた看護師さんと、目の前のこの人はわけがわからないといった表情でわたしをみる。
握られる手の力が強くなってすこし痛かった。彼は眉をよせて、お前の名前は?というから、わたしは、と名前を答えようとすると答えが出てこない。




わたしはだれで、いつから、どうして、ここのいるの?

ここに来る前はどこでなにをしていたの?

わたしのなまえは 、?




頭が混乱する。何がなんだかわからない。(わたしは誰?)
握られた手を振り払って、わたしは転びそうになりながら病室を飛び出す。その勢いで腕から点滴の針が抜けて血が出たけどそんなことは全く気にならなくて、はだしで冷たい廊下を息を切らして走り抜けた。(ここはどこ?)
あとから男のひとが追いかけてきて、わたしを後ろから抱きしめて押さえつけると言い様のない恐怖がわたしを襲ってきてますます混乱した。
勝手に喉が叫び声をあげて、涙があふれてくる。(こわい、こわい、)


、落ち着け!」


鎮静剤を。誰かがそう叫んで、いろんな人が来てわたしの腕を掴む。わたしは出来る限りの力で暴れようとするけれど、後ろから強く抱きしめられて押さえつけられて何も出来なかった。
怖がらなくて大丈夫だ、俺がいる。


それが、”わたし”の最初の記憶でした。




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勢いに任せて書いた。わりと好き。
書いてて思ったんですが何も知らない人に後ろから抱きしめられるなんて恐怖以外の何物でもないですよね。
さてせっちゃんは何を思って抱きしめたのでしょう…。書いといてなんですが私はよくわかりません。笑
「らしくない余裕のなさ」っていうのは、セフィロスを指したつもりです。