わたしは幸せです。
そう言って彼女は笑った。
死を悟った人間は何故こんなにも儚げなのだろう。
は儚く、美しかった。こんなに美しい姿をして人は死に行くものなのだろうか。
わたしは幸せです。
は繰り返しつぶやいた。まるで自分は幸せなのだと言い聞かせているようだった。
――貴方に愛してもらえて、わたしは幸せです。
だれかに愛して貰うことほど幸せなことはないでしょう。
わたしにはたくさんお友達がいて、何不自由ない生活をさせてもらえて、この身体があって。
貴方に愛していると伝えることが出来て、わたしはとても幸せです。
もうこれ以上のことはないと、は瞳に涙を溜めながら微笑んだ。
幸せではなかった。あの子の死期を知ってから。あまりに早くて、あまりに絶望的な。
ちいさな身体は日に日に細くなっていき、眠っている時間が多くなった。
――最後の時間は二人だけで。
搾り出した声は、震えていた。
――淡い光が差し込む教会。
そこはかつて愛を、誓った場所のはずだったのに。
今は黒服を着た人間ばかりが集まり、長方形の箱の中を覗きこんでは涙を流し、
悲観の表情を浮かべ白い花を添えていた。
箱の中には、少女が一人。
豪奢なドレスの白さに負けず劣らずの白い肌と、銀の髪。
顔に長い睫の影を落とし――眠っているようだった。
既に、息はしていない。
彼女の存在を知っている数少ない者達だけの小さな葬儀。
彼女の唯一無二の家族は、無表情で葬儀の光景を眺めていた。
涙を流すでもなく、哀しいと表情を崩すわけでもなく、呆然としているわけでもなく。
唯見ているだけ。
ふ、と。
彼に視線が集まる。
――他の参列者は既に花を添え終わった後で、残るはセフィロスのみとなっていた。
向けられる視線は冷たい。
恋人の死を目前にして無表情で突っ立っているだけなのだから。
至極面倒臭そうに、ふらりと祭壇の真ん前にある箱へと足を向ける。
箱の中に無理やり渡された赤い花を添えた。
頬に触れてみたらとても冷たくて。
いつものように恥ずかしそうに顔を綻ばせる事もなくて。
そっと冷たくなった身体を抱き寄せて――唇に触れる。
もう、そこに命は 無かった。
(涙すら流せなかった自分を、あのこは一体どう思うだろうか)